Home > 花筺 > スイフヨウ


 
スイフヨウ
〜酔芙蓉〜
 
(アオイ科フヨウ属)
 
 
8月30日、庭の酔芙蓉が
今年初めての白い花を咲かせた。
この花には、懐かしい思い出がある。
 
まだ井の頭の社宅に住んでいた時分、
子供達は7.5.2歳で
長女を学校に送り出し
長男の幼稚園まで
次女を連れて送っていくのが日課であった。
 
 
 

この頃の私は、
名古屋という、
主人以外は知る人のいない土地で8年ほど生活、
中部圏の特殊な環境に慣れていないことと
3人の子供にあくせくしているなどと思われたくない気持ちで
随分肩に力が入っていた。

長女の小学校入学に合わせて新築した
この家に引っ越ししたばかりの7月、
主人が東京本部に転勤となり
長女が夏休みになると同時に
井の頭の社宅に、又引っ 越ししたのである。  

 
一年に二回の引っ越しのうえに
子供の転校と転入園、
自分では関東圏に戻れてほっとしたものの
どこか精一杯であったある日、
いつものように次女の手を引き
長男の幼稚園に行く小路に入ったとたん、足を止めた。
 
5メートルほどのこんもりと 茂った木に
12〜3センチの大きな花が
数え切れない位咲いている。

うわーなんて素敵な花…

 

大好きな乳白色の花のかたまりは、
シンプルなレースの
透けたように見える花びらを幾重にも重ね、
清楚で優しく見えた。
その優しさは、
ほのかなピンク色になりかかった花を混じえて
一層優しく
濃いピンクの小さめのかたまりは、
この清楚な大輪の花の白を引き締めて
可愛らしさを添えていた。  

蕾が濃くて開くと真っ白になるんだ―
と言った母親に
5歳の息子は空かさずこう言った。


違うよ。
咲き終わったらピンク色になって縮むんだよ。

 
 
 
心に余裕のなかった母には、
プラタナスの若木だと思っていた木に、
花が咲いた事すら気がつかない日々…
環境が変わる度に
自家中毒を起こす息子の方が先に、
花の美しさに気がついていたなんて。
幼稚園の送り迎えの度に、
草花に目のいくように心を砕いてきたことを、
忙しさの中で忘れていたと気づかされた花である。  
 
後日、
花の名前はアメリカ酔芙蓉と知り
我が家に戻った折りに
早速、庭の北風の当たらない場所に植えた。

毎年、蝶々の幼虫に葉を分けてやりながら、
花の少なくなる晩夏に咲くこの花の
清楚な乳白色から可愛いピンクに酔う様を
じっくりと楽しんでいる。
 
 
初秋の訪れの中に、夏のなごりを探すように
開花期を延ばして咲く、終わりがけの花は
思わず頬ずりしてしまうほど愛おしいと思う。
 
2003.9 母書く

Home > 花筺 > スイフヨウ


このサイトに掲載されているすべての写真及び文章等の無断使用・複製を禁止します。

copyright ©2002-2008. [Mother's Garden] All rights reserved.