う ば ゆ り （ユリ科ユリ属）

〜緑乳白色の花〜

ようやく大好きなうばゆりがほころび始めた。 今まで二回、刈り残されたうばゆりを見に出かけていたが 、 冷夏のせいなのか、なかなか開いてくれなかった。 しかし、待たされた甲斐があって、 いつもの刈り込まれる道路沿いの群生地の 一本上の山道に、新しい群生地を見つけた。　 　 木漏れ日すら当たらない木立の中、 ヤブミョウガの段咲きの白い花が、 木曽川の流れを一斉にのぞき込むように立ち揃ったその中で、 彼女達は、すくっと背筋をのばして 咲き始めていた。

乳白色を緑色で染めた花びらは、 しっかりと形つくられた下の三枚の上に、 頼り無さそうな二枚と 重たそうな一枚を載せて半開きとなり、 下三枚と上三枚のはなびら の隙間から、 点描画のような臙脂色を少しのぞかせている。 この地味で目立たない色合いがこの花に深みを与え、 同じ緑のなかにあるにもかかわらず、 見逃したりはできない気品を放っている。 そしてまた、ユリとして完璧とは言い難い花形が、 飽くことのない魅力を生んでいる。

数輪ついた花は思い思いの方をむいていて、 少しばかり自己主張もしているように 見えるが、 一つ一つの花は、うつむいて 今にも散りそうな気配を見せている。 そうしていながら、 数輪の花の重みに撓んだりしない、真っ直ぐな茎が、 うばゆりの持つ雰囲気を凛としたものにしている。

陽光をあびて、咲き誇る華やかさを一瞬にして散らす、 着飾ったユリも素敵だと思うが、 周りと同じ緑の花でいながら、 周りの緑色にけしてを同化することのないうばゆりと、 咲いている周りの、ひんやりとした静寂さも含めて、 果てしなく好きなのだ。 咲く頃に葉が無いから、歯無しで「姥百合」だなんて、 緑の麗人と言ってもいいこの花に、 たいへん失礼な命名だと思う。 2003.8 母書く

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